恐怖の「沈」体験記!死なないために忘れません

死なないために忘れない。

初冬の沖合で完沈したカヤックにしがみついたあの経験。

2011年秋、自分のオカッパリ能力に限界を感じて鎌倉で始めたカヤックフィッシング。

好きな時、好きなポイントで、好きな方法で釣りができる魅力に憑りつかれて以来、百数十回の釣行に出て、今ではヒラメ、ワラサ、シーバス、カンパチ、アマダイなどオカッパリ時代とは比べ物にならない釣果を楽しめるようになった。

カヤックにも種類があるが、私が乗るのはシットオントップカヤックという船型のポリタンクのようなものの上に座るタイプで、カヤックフィッシングでは主流のもの。

事故当時乗っていたハリケーンカヤックスのフェニックス130

これにロッドホルダーや魚群探知機を装備すればプレジャーボートさながら本格的な釣りが手軽に楽しめる。

そんな魅惑のカヤックフィッシングも自然の中で遊ぶ以上、天候や海況による危険を伴うことは否定できず、私もカヤックフィッシングを始めたころから、本やネット情報を読み漁り、最大限の注意を払っているつもりだったのだが・・・危険は意外な形で襲ってきた。

当時は、カヤックフィッシングを初めて2年ほどが経過し、パドリング技術も向上し、ある程度、遠くまで行き、それなりの釣果を上げられるようになってきた時期だった。

忘れもしない、忘れてはいけない2013年11月13日、この日も海岸から約5km沖の水深60mのアマダイポイントを目標地点と定め、日の出とともに穏やかな凪の海に漕ぎ出た。

誰もいない明け方の海を滑らかに漕ぎ進む移動時間もカヤックフィッシングの醍醐味の一つだ。

当時の私のカヤックは数あるフィッシングカヤックの中でも特に軽量かつ細見でスピードに定評のある13feetの人気モデルで、この日のような好条件下なら軽くパドリングして時速5~6km、少し頑張れば7~8kmは出るはずが、何故かスピードが上がらず、漕ぎ味が重たかった。

それでもアマダイに目がくらむ私は、カヤックの異変に気付くことなく漕ぎ進んでいた。

漕ぎ始めてから約1時間が経過し、本来なら目的地に到着する頃なのに、まだ3km(6割)の地点にいたので「こんな凪なのにおかしいな、疲れてるのかな」と思いつつ、しばし休憩することにした。

そしてパドルをカヤック上に置き、お小水でもしようとしたその時、突然、頭の中で、10日前の釣行後のメンテナンスの際、カヤック船尾(船底側)の排水用ドレンプラグを開けて水を抜いたシーンが甦った。

カヤックの船体内部は空洞で、釣行時に若干の水が入ることがあるため、排水用のドレンプラグを使い排水できるのだが、ドレンプラグを閉めた記憶がない。

10日も前の事だが、ごく少量の浸水ならばタオルなどで拭き取れば済むので、ドレンプラグを使うことが滅多にないため強く印象に残っていたのだ。

ドレンプラグを閉めたのならその記憶もはっきり蘇るはずなのに、全く記憶になかったため、残念ながら閉め忘れだと確信してしまったのだ。

陸から3km離れた初冬の冷たい海で沈みゆくカヤックの上に居ると知り、血の気が引いた。

瞬時に「このままでは沈没する!ドレンプラグを閉めなければ!」と思った。

時間との勝負、数秒後には中央部で幅71cmしかないカヤックの上で、無謀にも後ろを向き、船尾まで匍匐前進してドレンプラグを閉めるという無謀な行動に出ていた。

そして次の瞬間、カヤックが左右に揺れ始めたかと思うと、あっという間に揺れは大きくなり、バランスを取る間もなくカヤックの左側の海に体が投げ出された。

一瞬頭部まで海中に沈んだが直ぐにライフジャケットとフルドライスーツ内の空気の浮力で浮き上がった。

すると今度は、必死の思いで左手で捕まっていたカヤックがこちらに覆いかぶさるように傾いてきて、必死の抵抗もむなしく、白いお腹を見せて裏返しになってしまった。

出た!完全なる「沈!」。

もちろんカヤック人生初。かろうじてカヤックの下敷きは免れたが、初冬の大海原でひっくり返ったカヤックに必死にしがみつく泳ぎの苦手な自分、これは間違いなく命に係わる大事件。

パニック状態に陥り、頭の中で「マズイ、マズイ」という言葉を繰り返していた。

そして、何はともあれ、この状況を脱するため「再上艇」しなければならない、と思うのだが、うかつにも再乗艇の練習は一度もしていない。それでも動画サイトで見た再乗艇を思い浮かべ、まずは、完沈したカヤックを上向きに戻そうとする。

しかし、興奮と恐怖で震える濡れた手と、掴みどころのないスベスベした船底が見事にマッチして、なかなか、きっかけがつかめない。目線は海水面とほぼ同じ、体を支えるものが何もない状態で目の前に横たわる長さ約4m、20kg近くあるカヤックをひっくり返そうと必死で手を伸ばし続けていた瞬間は、今思い返しても恐ろしい。

ただ、パニック状態の中で偶然にも体がカヤックの船尾近くに流されて、視界に閉め忘れていたドレンプラグが入ってきたので、右手を伸ばして閉めることができたのは幸運だった。

その時点ではプラグのことなど頭になく、再上艇しか眼中になかったので、もしすんなりカヤックを上向きにできていたら、原因を残したままの再上艇になり、違う結果だったかもしれない。

その後ようやく、船底中央の排水穴に左手の指がかかったのをきっかけに、船底に乗り上げるようにして反対側のエッジをつかむと、渾身の力で手前に引っ張りカヤックを上向きに戻すことに成功した。

船体だけでなく、クーラーボックスなど多くの装備品が取り付けてあるので、相当重たかったはずだが、まさに火事場の〇〇力だったのだろうと思う。

あとはカヤックの上に乗るだけ、どうしたのか詳しくは覚えていないが、とにかく力任せに掴めるものを掴んでカヤックの上に這いずり上がった。

再上艇の動画では泳ぐように足をバタバタさせるものがあるけれど、それは思い出せず、やらなかった。

なんとかカヤックに乗り上げたものの、まだカヤックと体が直交した状態なので、再上艇を完成させるためシートに座ろうと体制を変えようとした瞬間、グラッ!!この時点で船内に相当の水が入っていたため、非常に不安定になっていて、またも一瞬にして、今度は先ほどと反対側のカヤック右側に頭から落水してしまった。

カヤックはかろうじてひっくり返らなかったが、この落水で「無理か」と心が折れかかる。

それでも何とか気を取り直して再トライすると、今度は、船体に固定しているロッドホルダーにライフジャケットが引っかかって、完全にカヤック上にがり切れない。

当時、ライフジャケットは釣具を入れるための大きなポケットのあるものにしていたのだが、それが一因。

もう落ちたくない一心で、うめき声を上げながらしばし悶絶したのち、ようやく外すことができて、カヤックに乗り上げることに成功。

今度は先ほどの反省を活かして慎重に体勢を変えて、なんとかシートに座ることができた。

「生きてる」と感じるとともに、しばし灰色だった風景が色を取り戻した気がした。偶然にも原因のドレンプラグは閉められたし、カヤックはやや不安定ながらもしっかり浮いている。

さて、カヤック上でしばし興奮を落ち着かせて、今度は持ち物の確認だ。道具満載で、いきなり完沈したのだから、相当の物が流出しているはずだ。

まず、生命線のパドルはリーシュコードのお陰でカヤックの脇に浮いていたところを回収できたので一安心。2本のロッドのうち1本はリーシュコードに繋いでいなかったためロスト。

買ったばかりのロッドと愛用していた高目のスピニングリールだったのに・・・クーラーボックスとタックルボックスはバンジーコードで固定していたため無事。活かしバケツはロスト。

船首とロープで繋いだパラシュートアンカーは無事回収できたし、少し離れた海面に浮いていたビルジポンプも回収できた。ロストしたものは思ったよりは少ない。

派手に頭から海に落ちた割に、フルドライスーツのおかげで体は全く濡れておらず寒くないので、ヘタすれば、このまま釣ろうかという身体的コンディション。

喉元過ぎれば熱さを忘れるというのか、一瞬本気でそう思った自分の釣りへの執念が怖い・・・

しかし、身体的コンディションの良さとは異なり、カヤックはかなり不安定な状態で、やはり早く帰らざるを得ない。

帰るにあたり、ビルジポンプでの船体内の排水をすることも考えたが、このカヤックのハッチは乗船中は手が届かない先端部とシート後部の2か所で、シート後部のハッチを開けるには態勢を大きく動かすので、カヤックが揺れて再沈する可能性が高い上、ハッチ解放状態で沈すれば今度こそアウトなので、断念。

普段の半分程度の速度だが、パドリングして進むことが可能ならこのまま帰るのがベストと判断し、重たいカヤックを引きずるように3km以上先の陸を目指してパドリングを開始した。

途中、少し余裕が出て、情けない自分の姿を写真に収めようとポケットのスマホを取り出すが、1万円以上した防水ケースの閉め方が悪かったのか見事に浸水してスマホは海水漬け状態でご臨終。

この時は安全対策で防水ガラケーも持っていたので最悪118番に電話はできたが痛すぎる。

ロッド、リール、スマホを一度に失う経済的ダメージで追い打ちを受けて、パドリングの重さが増したものの、なんとか1時間少々漕いで、出発地点の海岸に着岸することができた。

いつもは釣果や出来事を妻に報告するのだけれど、この日の体験を話すことはできなかった。

こうして、海況のせいでもなければ天候のせいでもない、間抜けなドレンプラグ閉め忘れから始まったこの苦行だが、沖でドレンプラグのことに気が付いたときどうすべきだったのか。

冷静に考えれば、多方面に迷惑をかけるからと躊躇わず、まだカヤックが浮いているうちに海上保安庁へSOS(118)通報するのが最善策だろう。

浸水に気付いた時点で1/3までも浸水していなかった(陸に到着時に確認した)ことから、Uターンする選択肢もあったように思えるが、仮に引き返し途中で1/2まで水が入れば、カヤック上でパドリングするだけでもバランスを崩して沈して、その状態では再上艇すらできなかったかもしれないから、危険だ。

シート後部のハッチを開けてビルジポンプで排水しながら戻るのは、海水が入る穴があっても空気が出る穴がなかったことが浸水スピードの遅さの要因だった可能性があるので、ハッチを開放する行為が危険だ。

今回のように水に入って、プラグを閉めるのはというと、仮にもう少し、風、波があれば、浸水が進んでいたら、再上艇はできなかっただろうから、危険だ。日頃からジム通いで多少は体を鍛えている自分だが、今回の穏やかな海況でもカヤックをひっくり返したり、再上艇するのにはかなり苦労した。

あと2回再上艇できたかどうかは微妙ではないだろうか。仮に風や潮の流れが強ければ、カヤックと離れて漂流という最悪の事態になる可能性もある。

カヤックが近くにある限り再上艇の可能性はあるが、海況やカヤックの状態が沈したときと変わらない中で再上艇しても、沈を繰り返す可能性が高く、繰り返し再上艇にトライすることで、救助を待つために必要な体力も失いかねない。

防水ケースに入れたスマホだって劣化や装着ミスによる浸水リスクがあり、一度浸水すれば救助も呼べなくなる。

これらを考えると、自ら水に入るのは最悪の危険な選択に思える。

結局、この時は数々の幸運が重なり大事に至らなかっただけで、まさに九死に一生だったのだと改めて痛感させられる。

この日の出来事をしっかり記憶に刻み、常に少しでもリスクを低減してカヤックフィッシングを楽しむ方法を考え続けたい。

ちなみに、現在は、手漕ぎカヤックを卒業して、より機動力のある足漕ぎカヤックに乗っている。

しかし、当時のような遠いポイントには行かず、天候や海況もシビアに選んで出船している。

更にフルドライスーツの必要な時期はカヤックフィッシングをせず冬眠することにしている。

そしてもちろん、ドレンプラグはそれ以来一度も使っていない。

「恐怖の「沈」体験記!死なないために忘れません」への4件のフィードバック

  1. カヤックフィッシングの初心者🔰です。ドレンプラグ閉め忘れ、とても怖いてですね。
    大変参考になりました。
    ありがとうございます。

  2. うみざるさん
    コメントありがとうございます。
    安全に楽しむため、少しでもお役に立てると幸いです。

  3. 参考になる記事ありがとうございます。
    私は手漕ぎボートで釣りを楽しんでいますが、足で漕ぐカヤックを沖で見かけて気になっていました。こちらのブログでカヤックフィッシングが少しわかってきました。
    沈、怖いですね。
    「釣りで死にかけた話」、この本大いに参考になります。書名は少し違うかもしれません。

    1. さすらい船長さん
      こんにちは。コメントありがとうございます。
      恥ずかしながらの恐怖体験ですが、少しでもこの恐怖感を共有していただけたら書いた甲斐があります。
      あの本、編集者さんが地道に探して厳選した恐怖体験なのでリアルで怖いですよね。
      沢山恐怖を感じて、少しでも安全に釣りを楽しむ糧にしたいですね。

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